
原研哉
白 2008年
好きなデザイナーと言うと僕のなかでは昔から原研哉さんの名前が一番に挙がる。
代表的な仕事としては無印良品があり、アートディレクターを務めている。そんな原デザインの特徴は、なんと言っても「シンプル」だと思う。
ただ、一言でシンプルと言っても、ミニマムに削ぎ落とすというものではなく、著書でも語られているように、日本的な「空白」の美意識が根底にあり、デザインの対象となるものが一つの「器」となるように形作られる。
そういった感性ゆえに、そのデザインからは優しい余白や包容性が感じられるのかもしれない。
原さんは、自身のデザイン哲学を綴ったエッセイや評論、対談本など書籍も刊行され、そのデザインの考え方含め、新しい視点として気づかされることも多い。
そのなかでも、日本的な美意識を背景に「白」の捉え方について綴った、『白』という本は、教科書にも掲載されるなど、代表作として知られる。
この本は、個人的に、若い頃に読んだ本ということもあって印象深く、原さん自身による装丁も簡素で美しい(確か本屋を散策していたときに、装丁が目を引き、手に取ったのだと思う)。
また、「白」に関する冒頭の一文も惹きつけられる。
白があるのではない。白いと感じる感受性があるのだ。だから白を探してはいけない。白という感受性を探ることによって、僕らは普通の白よりももう少し白い白に意識を通わせることができるようになる。
原研哉『白』
白は、単体の色というよりも、「白い」と感じる感受性だ、と原さんは書く。「白い」と感じる感受性──これは、余白において感じる美的な感性と繋がっているものだと思う。
たとえば、「なにもない」ということは、必ずしも「なにもない」というネガティブな状態を意味するだけでなく、そこに、器のような「満たされる可能性」が宿っていることがある。
この「満たされる可能性」を導き出すような、機能する空白としての「白」。そして、人はまた、その空白を埋めようとする傾向があり、ここにコミュニケーションが生まれる。
原さんの『白』は、こういった「白」というものに対する捉え方を、日本的な美意識や文化を絡めながら、様々な角度から深めていく。
無印良品にしても、分かりやすく個性的で主張のあるデザインではなく、ある種の空白(器)として機能する世界観を提示しているからこそ、これほど自然に浸透しているのかもしれない。
この『白』に限らず、原研哉さんの本は、理性と感性のバランスが絶妙で、まるでデザインのような雰囲気があり、言葉そのものにも魅力がある。
