ロウェル・バージ・ハリソン
クリスマス・イヴ 1918年頃
雪景色の上空に、満月が浮かんでいる。奥には、湖らしき水辺が見える。水面に反射する月明かりは繊細で、民家の灯りは優しい夜のひとときを連想させる。
作者は、ロウェル(ラヴェル)・バージ・ハリソンというアメリカの風景画家で、トーナリズムの画家の一人だ。ハリソンは、1854年にフィラデルフィアで生まれ、地元の美術アカデミーやフランスなどで絵画を学び、風景画家や教師として活躍し、1929年に亡くなる。トーナリズムというのは、1880年から1915年頃のアメリカの雰囲気や影を強調した芸術スタイルを指し、フランスのバルビゾン派などの影響を受けている。tonalとは、音調や色調、色合いという意味で、トーナリズムは、日本語においては「色調主義」と訳される。ハリソンも、このトーナリズムの画家の一人で、街の景色も、自然の風景も、心地よい静けさに包まれながら、崇高さや温もりも垣間見える。
そのなかでも、個人的に好きな作品の一つが、この『クリスマス・イヴ』だ。一見するとクリスマスと分かるような描写はなく、このタイトルがなければ、クリスマス・イヴの夜だとは気づかない。また、クリスマスでなくとも、その絵の雰囲気や美しさは、何一つ損なわれることはない。それにもかかわらず、このタイトルがつくことで、いっそう絵の世界に引き込まれる。タイトルが、絵の深みを引き立てている作品の一つでもある。
この作品以外にも、ハリソンの絵には、雪景色が多く描かれる。ぼんやりと霞んだ静寂の世界が魅惑的だ。ハリソンは、生涯に渡って美しい風景画を描き続けたものの、時代はより現代的なアートの世界に興味を持つようになり、トーナリズム自体の人気も失われていったという。