夜空と星の絵画

版画作品も含め、昔の夜空の絵を色々と見ていると、日本の作品と西洋画では、それぞれの夜に違いが見られるなと思う。

たとえば、夜空の星に焦点を当てた西洋画に、ミレーやゴッホ、ムンクの作品がある。

ジャン=フランソワ・ミレー
星の夜 1850 – 1865年

フィンセント・ファン・ゴッホ
ローヌ川の星月夜 1888年

エドヴァルド・ムンク
星月夜 1893年

星の絵画では、フランスのバルビゾン派の画家・ミレーの星空が美しい。満天の星空に、いくつかの流れ星も見える。ミレーはバルビゾン村にいるとき、星を見上げるのが好きだったそうだ。

また、ミレーの影響を受けたゴッホも、『ローヌ川の星月夜』という川の上空に爛々と輝く星空の絵を描いている。ゴッホでは、もう一つ、代表作として有名な、糸杉の描かれた『星月夜』もあるものの、『ローヌ川の星月夜』のほうが、宝石のような星々と、寄り添うカップルの存在ゆえに温かみが感じられる。

ムンクの『星月夜』は、ムンクが夏場に過ごしたノルウェーのオースゴールストランという小さな漁村の海を描いたとされる。水面には星の光が冷たく反射し、青く表現された夜は陰鬱な印象を抱かせる。

一方で、日本の新版画や、江戸時代の浮世絵を見ると、どうやら星はほとんど描かれていないようだ。それでも、まだ個人的に星が綺麗だなと思うのは、歌川広重の名所江戸百景の『浅草川首尾の松御厩河岸おんまやがし』。この絵では、松の木の向こうに星空が広がっている。

大正から昭和にかけての新版画でも、星が描かれている作品は、ぱっとは思い浮かばない。夜空の主役は月であり、満月の絵も多い。その他、昔の日本画でも、星を主役にした絵というのが、印象にない。

歌川広重
浅草川首尾の松御厩河岸 1856 – 1858年

川瀬巴水
遠州新居町 1931年

吉田博
利根川 1926年

吉田博
平河橋 1929年

星を表現すること自体が難しいということもあるかもしれないし、もしかしたら、あまり星を幻想的で美しいものとしては捉えていなかったということもあるのかもしれない。現代は、都会では星がほとんど見えず、田舎の星空に感動したり、ロマンチックな雰囲気もあるものの、昔は常に満天の星空で、今とはまた捉え方が違ったのかなと想像する。

そういえば、和歌も、星はあまり詠まれていない。同じく、月が多い。月は存在感があるというだけではなく、満ち欠けもあり、情緒と深く結びついているゆえに、共鳴しやすいということもあったのかもしれない。