カシワイ─イラストレーター・漫画家

カシワイ

一本の木と一人の少女。 木の隣に立っている少女は、どこかぼんやりと遠くを見ている。少女が、木と遊んでいたり、木を慈しんだり、といった両者の関係性が描写されていないのもよく、色の淡さも含め、ちょうどいい孤独感がある。

作者のカシワイさんは、京都在住のイラストレーターで、個人のイラスト作品の他に、漫画や装画も手掛けている。個人の作品では、言葉がなく、説明的でもない、繊細な線と余白が美しい詩的な一枚の絵をよく描き、僕の持っている作品集でもそういった絵が纏められている。

カシワイさんの絵は、色のない世界のイメージがあるものの、淡い色を中心にカラーの絵も多い。それから、一人の少女がよく出てくる。日常のような場面もあれば、夢のなかで見たような世界になっていることもある。少女と言っても、年齢はよくわからない。いつも同じ子にも見えるし、違う子のようにも見える。もしかしたら、少女でもないのかもしれない。透明感があって、儚く、感情がはっきりとは描かれていないが、そこはかとなく寂しさが漂っている。その寂しさが、いつかの自分の寂しさとも似ている。だから、言葉はなくても、世代や性別を越えて、不思議と共鳴するものがあるのかもしれない。

カシワイさんは、漫画も描いている。一枚一枚で完結する、解釈を避けるような、余白のある世界が美しい一方、漫画には漫画のよさがある。カシワイさん作の漫画では、宮沢賢治や新美南吉などカシワイさん自身が好きな日本文学の作品をもとに漫画化した『光と窓』や、原作も担っている、海辺の街の絵描きの老人と少女を描いた『風街のふたり』などがあり、漫画も、繊細な空気に包まれるような詩的・童話的な作品だと思う。

僕は、カシワイさんの絵に関してはイラストから入ったこともあり、イラストレーターの印象があるものの、インタビューを読むと、どうやらキャリアの最初は漫画だったようだ。大学ではデザインを学び、趣味でネット上に絵をあげていた際に、編集の人から、漫画を描きませんか、というお誘いがあったと言う。カシワイさん自身は、イラストレーターと漫画家、その両方でありたいと語っていた。