口づけする金箔の絵『接吻』が有名な、画家のグスタフ・クリムトは、風景画も多く残している。
クリムトは、19世紀後半から20世紀初めにかけてのオーストリア・ウィーンの画家で、クリムトの作風と言えば、金箔を使った煌びやかな人物画が浮かぶ。特に『接吻』は印象的で、金色の衣を纏った二人が、花畑の崖の際のような場所に立っている。背景も、まるで金の水飛沫や霧が漂っているようで、今にも崩れ落ちながら世界と人物とが溶け合っていくようだ。クリムトにまつわるドキュメンタリーを観たら、この絵の前で実際にキスをしている若いカップルがいた。儚い映像美も相まって、その光景も美しかった。
グスタフ・クリムト
接吻 1907 – 1908年
もともとは、伝統的な画風で描き、若くして成功も収めていたものの、1892年に父親と弟が亡くなったのち、徐々に自分の作風を模索するようになり、新しい芸術を追求するウィーン分離派を立ち上げたり、「黄金様式」と呼ばれる金箔を使った独自の作風で描くようになる。この『接吻』も、クリムトの黄金様式の代表作で、一度目にしたら忘れないような、美と退廃や不安とが調和した濃厚な雰囲気を漂わせている。
一方、あまり印象はないものの、クリムトは静かな風景画も多く残している。クリムトの風景画は、花や緑、水辺が描かれ、金色の人物画とはだいぶ異なる。オーストリア中部にあるアッター湖畔の別荘に避暑のために訪れ、その情景をよく描いたそうだ。クリムトの風景画は、何気ない風景も多いのに、花々やゆらめく水面が幻想的で、夢のなかのようでもあり、穏やかで美しい。