グスタフ・クリムト
ひまわり 1907年
グスタフ・クリムトの作品と言えば、金箔を使った、煌びやかで溶け合うような男女を描いた『接吻』の印象が強いものの、穏やかな風景画も多く、ときに色とりどりの花も描きこまれている。ゴッホも色々な花の絵を描いていたが、花というモチーフは、画家の筆に載せる感情を抑制する効果があるのか、なんとなく優しい絵になる。
クリムトの花の絵には、ゴッホと同じくひまわりの絵がある。クリムトの場合は、ゴッホによる花瓶に入ったひまわりの静物画と異なり、庭かどこかに咲いている一本の大きな花として描かれている。花は、力強く咲いているような陽気さはなく、うつむき加減で、ややもすると寂しげでもある。しかし同時に、厳かで美しく、存在感があり、ドレスを纏った一人の女性のような雰囲気もある。一人の人間と考えると、ほんの少し孤独感が漂っているようにも見えるし、聖なる存在と捉えると見守るような神々しさもある。
生垣なのか、ひまわりの背後を、ぽつぽつと白い花をつけた緑の植物が覆っている。当時の批評家は、クリムトのひまわりについて、「まるで、恋に落ちた妖精が、その身にまとう緑がかったグレーのローブを情熱で震わせているかのようだ」と甘美な描写で説明している。クリムトは、このひまわりの絵を、どうやら夏場に避暑地として恋人と行っていたアッター湖で描いたようだ。風景画も、この地の景色がよく描かれている。ひまわりの花も、その恋人のことを比喩的に表現したものではないかと指摘されている。
擬人的な表現なのか、花そのものの持つ魅力を描いたのか、いずれにせよ、クリムトの描く自然は、緑の世界という中和もあってか、穏やかで、どこか夢見心地な世界を映し出しているように思う。