
鈴木春信
二月 水辺梅 1768年頃
江戸時代の浮世絵師・鈴木春信の『二月 水辺梅』。暗闇のなかで、若い男性が、恋する女性のために、白梅を手折ろうとしている情景が描かれている。
二人はどれくらいの年齢なのだろう。結構若く見える。服の色合いや模様が素敵だなと思う。
男性の柵に乗る足にぐっと力が入り、一生懸命さや、人物の生が伝わってくる。女性の側は、灯籠の上に頬杖をついて眺めている。見惚れているのか、退屈しているのか、女性のほうが少し大人びた様子で、必死の彼を見守っているのかもしれない。
春信の絵の人物は、おとぎの国のように儚く可愛らしい雰囲気で、ややもすると現実感が欠けたようにも見える一方で、この絵の男女は、現実感があって妙に生きているように思える。
それは、好きな人のために梅の花を取ろうとするという共感しやすい光景に加え、若者の踏ん張った足や頬杖をついて眺めるという仕草に、親近感を抱くということもあるのかもしれない。
江戸時代の絵なのに、今と変わらない。その変わらなさが、身体的なリアリティを持って迫ってくる気がする。
絵の上に載っている和歌は、「末むすぶ人の手さへや匂ふらん梅の下行水のなかれは(下流で掬ぶ人の手さえ匂うだろうか。梅の花の下を流れてゆく水は)」という歌で、その和歌の通り、暗闇の向こうには流れる川も描かれている。
この「末むすぶ」という言葉には、水を掬うという意味とともに、将来を約束するという意味が掛けられ、恋の成就を願った歌だという解釈があるようだ。
梅を手折り、恋する相手に贈ろうとする、二人の純粋な恋がいつまでも続くことを描いた絵なのかもしれない。
