小村雪岱は、大正から昭和にかけて、絵の作品だけでなく本の装幀や挿絵など幅広い分野で活躍した、今のデザイナーやアートディレクター的な側面もある画家で、資生堂の意匠部に所属していた経歴もある。
江戸時代の浮世絵師、鈴木春信の影響も濃いと言われ、「昭和の春信」とも称される。江戸の情緒も残しつつ、現代にも通じるモダンなおしゃれさもある。大胆な構図や繊細な線、余白を活かした雪岱の画風は、「雪岱調」と言われ、当時から人気だったようだ。絵だけでなく、資生堂時代に担当した香水の瓶のデザインも、上品で美しい。古き良き美しさもありながら、今改めて販売されたとしても新しさが感じられる。
小村雪岱『香水瓶 菊』
女性の絵を描き、様々な分野で活躍し、商業的な人気も博していたという点では、雪岱は、竹久夢二と似ている面があるようにも思う。二人はほとんど同時代の画家ではあるものの、関わりがあったという話は読んだことがない。また、雪岱が、作品に関して、「私は個性のない表情のなかにかすかな情感を現したい」と書き、悲しみや憂いが滲み出ている夢二の絵とは、作風的には違う。それは、夢二が詩人であった、ということも大きいのかもしれない。
情緒が溢れるような表現の夢二に対し、個性のない表情にかすかな情感を、と語る雪岱。その違いというのも面白く、小村雪岱のモダンと伝統という側面が表れている言葉のようにも思う。